8.販売の魔力


例えばですよ、何処かのジュエリーデザイナーがデザインしたシリーズを何処かの宝石店やメーカー卸が販売したとして、それらの商品の品質はそこそこで値段的にもこなれているのに全く売れなかったとしますね。では売れなかったのはデザインが悪かったのしょうか? もちろんデザインの善し悪しも大きな要因だとは思いますが、実際問題としてデザインだけが悪かったとは言い切れない側面が有ります。

何故なら宝飾業界を支配する一つの論理が有りまして、それは販売力と言うモノです。そして販売力と言うモノをかいつまんで説明すると「何処の宝石店でも卸屋でも一人位はやたらめったらジュエリーを売る事が出来る人がいる」と言う事実です。で、その人が経営者な場合も有りますし、従業員な場合も有るのですが、宝飾業界と言うモノは良くも悪くも営業成績を中心に回っておりまして、同じ商品を販売しているのにかっこたる差が付くと言う不可思議な現象が存在し、逆に考えれば商品の売れなかった理由の一つに販売力の無さなんて要因も考えられるからです。

で、先ほどのデザインの善し悪しの話に成りますが、僕の昔の知り合いに、そのやたらめったら売る人がいまして、結構大きな宝石店のオーナーに収まった訳です。そして、やたらめったら売る人に共通で有る「一種のカリスマ性」も当然持ち合わせており、なかなか面白いセンスの持ち主だった事も有り、ある日思いつきで数種類のリングを外注して作った訳ですが、そのリングと言うモノが僕達専門家から見ると「アイディアとしては面白いけど実用性に欠きデザインも稚拙で価格も高い」と言う代物だった訳ですが、それらが結構な勢いで売れて行ったのです(笑)。

そして売れる事に味を占めたそのお人はこれまた結構な数のオリジナル商品を作った訳ですが、それらも確実に売れて行きました。もちろんそれら商品の中には「専門外の人(※これまたアレな話ですが売りまくる人材の共通項として宝飾系の専門教育を受けていないとの側面も有り、つまり販売のプロとは呼べてもジュエリーデザインの専門家とは呼べない人が多いので…)が考えたにしてはなかなか良いね」と思えるモノも複数混じっていましたが玉石混合と言う言葉が、そっくり当てはまる感じでして、当時の僕は「普通だったら売れないモノも売ってしまう販売力(※営業力)とは恐ろしいモノだなー」としみじみ感じ入ったと言う次第です。

そして僕が辿って来た道のりのコンテンツに「忙しくてデザインしている暇なんて無かった」などと言う意味不明なワードが出て来ますが、これまた世間の人が聞いたら吃驚しそうな話ですが、たとえメーカーと言えどもジュエリーデザイナーが存在しなくても商売は成り立つ世界でも有りまして、同業他社の製品を参考にすると言えば聞こえは良いのですが、平たく言えば「売れ筋の商品のデザインを模倣する」だけでも僕の所属していた様な中規模のメーカー卸なら十二分に成り立ってしまうのです(※アジア圏などから仕入れた商品なども含めてですが…)。

そしてその模倣した商品でも販売力の有る人や組織にかかれば「いくらでも売れる」訳で、この辺りは「オリジナリティを尊ぶ欧米」と「模倣された商品でも人と同じモノを欲しがるもしくは気にしない(※知らない)日本」の違いでも有り、年間売り上げ高だけを見れば「世界でもトップクラス(※確か世界二位)で有る日本の市場が熟成していない証拠」でも有ります(※1990年代当時)。しかしこの辺りの事情も年々変化していっているとの見方も出来、10年前に通用したやり方が現在では通用しなく成って来ているとも思えますし、全体の何パーセントかは計れませんが「市場の熟成に伴いオリジナリティの有るジュエリーを欲しがる購買層と言うモノも存在するし、増えつつも有る」と僕は思います。



そして僕が宝飾の仕事から一端手を引いた頃に登場したのが、クロームハーツに代表される「シルバーアクセサリー」と呼ばれる商品でして、もちろんそれ以前にも品質の善し悪しは有りましたが、シルバー商品を扱う所も有りました。で、それ以前のシルバーと言えば一般的には「トルコ石などを使ったインディアンジュエリー」か「少年雑誌の裏表紙に載っている安物の通販で買える商品」位のイメージしか無かった訳です(※一部品質の高いモノも存在していましたが…)。

しかしクロームハーツがブームを呼び込んだ為に日本国内でも多数の業者や製作する人達がシルバー業界に参入し、ブームは去ったとは言え現在でも無数のブランドが存在し、売り上げ的にもかなりの額の取引が有る様です。そしてこの業界では「あからさまな模倣」が未だに横行しており、初期に参入した僕の昔の知り合いなどもクロームハーツのデザインを多少アレンジした商品を製作し国内有数のブランドと成り多額の利益を上げたと聞きました。

しかし、後発で参入した業者の中には稚拙ながらも若いスタッフを集めてオリジナル風な商品で営業を展開してる所なども有るのですが、売り上げの方はさっぱりみたいです。もちろん売れない原因の一つとして専門学校を出ただけで、修行もろくすっぽしていない(※通常仕事が出来る制作者に成るためには実績の有る所での5年以上の実務経験が必要)若いスタッフに商品開発を任せるなどと言う漫画みたいな経営方針にも問題が有りそうですが「シルバーアクセサリーを求める購買層が彼らの作るアクセを欲しがらない(※つまり有名ブランドの模倣のがましと…)」のが最大の問題点と思われます。

ところが、参入した時期が早かったとの理由にて同じ様な形態で商売を成功させている業者も存在してまして、一定の成功パターンの見えて来ない業界でも有りますが、宝飾品の市場が戦後の高度成長期の右肩上がりの経済と共に50年以上の時間をかけて形成されて来たのに対して、シルバーアクセのそれは、まだ市場が形成されてから10年程度しか経過しておらず、市場の熟成度も宝飾品のそれに対してかなり低いのが原因かもしれません。

で、シルバー業界にも「売れてなんぼ(※販売力至上主義)」と言う論理は当てはまる訳でして、僕の知り合いの中にも品質的にもデザイン性を見てもハイレベルな商品を展開している人達も存在しますが、それらの人達がコアーなファン(※ヘビーユーザー的な)を獲得する事は十二分に可能ですし、実際に業績を上げている方々もおられますが、現時点では全体的な流れとして海外ブランドの商品か?それらを模倣した商品が取引全体の多数を占めていると僕は見ております。

さてジュエリーデザイナーの実際から始まって宝飾業界やアクセサリー業界の一面(※僕の書いたのは一面で有り全てとは違います)をかいつまんで説明した訳ですが、ジュエリーデザインと言うモノと向き合うには市場原理を知る事も必要ですし、市場のニーズを知り市場への新提案を行うなどと言う全体的な努力も必要と成ると思われますが、模倣から始まった日本のジュエリーシーンから新たなる潮流が生まれる様な気もしてますし、模倣する事によって、模倣したモノの良い部分を吸収し、そこに自分の内面に有る何かを加える事によりオリジナリティ溢れるグッドデザインな商品を作り出す事も可能だと僕には思えるので「模倣から入るのもデザイナーにとっての一つの入り口で有る」と認識して頂いても良いと僕は思います。


0.デザイン の 1.プロローグ 2.貴金属+宝石=? 3.に成る前に..
4.に必要な資質.. 5.何を考えて.. 6.の道のり.. 7.との出会い..
8.販売の魔力 9.環境の変化 10.状況に応じて 11.似合う臨界..
12.誰が為に.. 13.考える時.. 14.の引き出し.. 15.エピローグ

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